VDIが遅い?原因特定とパフォーマンス改善対策
2025.03.27投稿、2025.03.27更新
テレワークの普及により、多くの企業でVDI(仮想デスクトップ)の導入が進み、セキュアなリモートワーク環境が実現するようになりました。その一方で、情報システム部門では「画面の動きが遅い」「アプリケーションの起動に時間がかかる」といった社員からの問い合わせ対応に追われるようになったのではないでしょうか。特に始業時間帯には問い合わせが集中し、対応に苦慮するケースが増えています。
本記事では、VDI環境でのパフォーマンス低下の主な要因を、ネットワーク、サーバー、クライアントの3つの観点から解説し、効果的な改善策をご紹介します。さらに、よりストレスフリーな運用を実現するデータレスクライアントという選択肢についても解説します。
VDIについては、次の記事も参考にしてください。
VDIを構築するには?手順と注意点、必要な費用を解説
VDIのパフォーマンス低下が発生する3つの主要因
VDIの性能低下は、様々な要因が複雑に絡み合って発生します。ここでは、主要な3つの要因について、それぞれの特徴と発生メカニズムを詳しく解説します。
ネットワーク帯域幅の不足と輻輳(ふくそう)
VDI環境でパフォーマンス低下が発生する最も一般的な要因が、ネットワーク関連の問題です。
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ネットワーク帯域幅とは
ネットワーク帯域幅は、データ通信における「道幅」のようなものです。VDI環境では、ユーザーの画面情報やマウス・キーボードの操作情報が常時やり取りされており、十分な帯域幅が確保できないと、動作の遅延やちらつきなどの問題が発生します。
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ピーク時のアクセス集中による影響
多くの企業で最も顕著なパフォーマンス低下が発生するのが、始業時間帯です。午前9時前後になると、大多数の従業員が一斉にVDI環境へのログインを試みます。この時、各ユーザーのプロファイル情報が一斉にダウンロードされることで、ネットワークに大きな負荷がかかります。プロファイル情報には、ユーザーごとの設定やデータが含まれており、そのサイズは場合によっては数百MBに及ぶこともあります。この大量のデータ転送が同時に発生することで、ネットワークの輻輳が起こり、結果として深刻な遅延が発生してしまいます。
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定期バックアップとの競合
VDI環境の性能低下は、業務時間中に実行される様々なシステムメンテナンス処理との競合によっても引き起こされます。特に問題となるのが、定期的なバックアップ処理です。多くのシステムでは、データの保全のために業務時間帯にもバックアップを実行する必要があり、この際に大量のデータ転送が発生します。さらに、メールサーバーやファイルサーバーなどの基幹システムでは、可用性確保のための同期処理が定期的に実行されます。これらのメンテナンス処理が、限られたネットワーク帯域を奪い合うことで、VDIの画面転送に必要な帯域が確保できず、結果としてユーザー体感性能の低下を招いてしまいます。
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リモートサイトからの接続遅延
企業の拠点間を接続するWAN回線では、コスト最適化のために帯域制限が設けられていることが一般的です。VDIトラフィックはこの制限の影響を直接受けることになり、特に画面転送時の遅延として顕在化します。さらに、多くの企業ではQoS(Quality of Service)設定が十分に最適化されていないケースが見られます。その結果、基幹業務システムや音声通信などと比較して、VDIトラフィックの優先度が適切に設定されず、重要な業務での画面応答に遅延が生じてしまうことがあります。
また、在宅勤務環境におけるVDIのパフォーマンスは、インターネット回線の品質に大きく左右されます。各家庭の回線品質は、契約プランや提供事業者、加えて建物の配線状況などによって大きな差が生じます。そして、同じ回線であっても、時間帯によってISP(インターネットサービスプロバイダー)の混雑状況が変動するため、安定した通信品質を確保することが困難です。特に夜間の帯域混雑時には、日中と比較して大幅なパフォーマンス低下が発生することもあり、これが在宅勤務における業務効率に影響を与える要因となっています。
サーバーリソースの枯渇
VDIのパフォーマンス低下を引き起こす2つ目の主要因は、サーバーリソースの枯渇です。VDIサーバーは複数のユーザーで共有されるため、適切なリソース配分と監視が重要になります。
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CPU使用率の逼迫(ひっぱく)
VDI環境でのCPU使用率の逼迫は、いくつかの要因が組み合わさって発生します。主な原因は、多数のユーザーが同時に作業を行うことによる各セッションでのプロセス増加です。さらに、セキュリティ対策として導入されているアンチウイルスソフトの定期的なスキャン処理も、CPU負荷を増大させる要因となっています。特に、アンチウイルスソフトの設定が最適化されていない環境では、複数の仮想デスクトップで同時にスキャンが実行されることで、CPU使用率が急激に上昇してしまいます。
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メモリ不足による性能低下
メモリリソースの不足は、VDI環境全体のパフォーマンスを著しく低下させる深刻な問題です。主な原因として、ユーザーセッション数の増加に伴う各セッションへのメモリ割り当ての圧迫が挙げられます。加えて、長時間稼働によるメモリリークの発生で、使用可能なメモリが徐々に減少していきます。システムはこのメモリ不足を補うため、「ページング」という処理で物理メモリの代わりにハードディスクを仮想メモリとして使用しますが、ハードディスクへのアクセス速度は物理メモリと比べて極めて遅いため、アプリケーションの応答性が大幅に低下することになります。
クライアントの設定問題
3つ目の主要因は、クライアント側の問題です。サーバーやネットワークの問題が原因として考えられがちですが、実はエンドユーザーの端末設定が適切でないことにより、VDIのパフォーマンスが大きく低下するケースが多く見られます。
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クライアントの表示設定
クライアント側の表示設定は、VDI環境の快適な操作性を大きく左右します。多くのユーザーは物理PCと同様の高解像度・高品質な表示設定を使用しようとしますが、これは大量のデータ転送を必要とし、結果として性能低下を招くことがあります。特に、グラフィックスアクセラレーションの設定が適切でない場合、GPU本来の性能を活かせず、不必要にCPU負荷が増大してしまいます。また、マルチモニター環境では、複数画面への描画処理や転送データ量の増加により、システムへの負荷が大きくなります。
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ローカルリソースの設定
VDI環境でのローカルリソースの設定では、利便性と性能のバランスに注意が必要です。特にUSBデバイスのリダイレクト設定では、必要以上に多くのデバイスを許可してしまうことで、不要なデータ転送が発生し、システムに負荷がかかることになります。また、クリップボード共有機能は業務効率を高める不可欠な機能ですが、大容量データの頻繁なコピー&ペーストによってネットワーク帯域を圧迫する可能性も指摘されています。
プリンターに関しても、全てのプリンターを自動的にリダイレクトする設定にしていると、プリンタードライバーの読み込みやステータスチェックによって、セッション確立時の処理が遅くなります。このようなローカルリソース設定の最適化不足は、日常的な操作性の低下を引き起こすだけでなく、特に起動時やログイン時の著しい遅延の原因となっています。
VDIパフォーマンス改善のための対策
パフォーマンス改善には、システムの各レイヤーに対する適切な対策が必要です。ここでは、サーバー、ネットワーク、クライアントの各側面からの具体的な改善方法を紹介します。
サーバーサイドでの改善策
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リソース最適化によるパフォーマンスの改善
VDI環境のパフォーマンスを最大限に引き出すためには、サーバーリソースを最適に配分することが重要です。各仮想デスクトップには、ユーザーの業務内容に応じた適切なCPUとメモリを割り当てる必要があります。
また、仮想マシンの物理サーバーへの配置についても工夫が必要です。特定のサーバーにリソース負荷が集中しないよう、ユーザーの利用パターンを考慮しながら仮想マシンを適切に分散配置することで、VDI環境全体のパフォーマンス向上と安定化を実現できます。
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運用面での改善による負荷分散とパフォーマンス向上
システムリソースの最適化に加えて、運用面での工夫も効果的です。特に大きな改善が期待できるのが、始業時に集中するログオン処理の分散化です。部門ごとの始業時間調整やフレックスタイム制の活用、さらには事前ログオン機能の利用により、システムへの一時的な負荷集中を効果的に軽減できます。
また、アンチウイルススキャンやWindows Update、システムバックアップといったバックグラウンド処理を業務時間外に適切にスケジューリングすることで、業務への影響を最小限に抑えることができます。
ネットワーク面での改善策
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帯域制御の最適化によるネットワークパフォーマンスの改善
ネットワーク面での改善策としては、適切な帯域制御も重要です。特にQoS(Quality of Service)設定を活用することで、VDIの画面転送など業務に直結する重要なトラフィックを優先的に処理できるようになります。例えば、リアルタイム性の高い画面転送やキーボード・マウス入力のパケットに高い優先度を設定し、一方でバックアップや大容量ファイル転送などの業務への影響が比較的少ないトラフィックは優先度を下げるといった制御で大きな効果が得られています。
また、拠点間を結ぶWAN回線のパフォーマンスを向上させるには、WAN高速化装置の導入も有効な手段です。
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ネットワーク構成の最適化による応答性の向上
拠点間通信が多い環境では、ブランチキャッシュの活用が有効です。よく使用されるデータを各拠点でキャッシュすることで、WAN回線への負荷を軽減し、ユーザーの体感速度が向上します。また、プロキシサーバーの配置を最適化することにより、インターネットアクセスの効率化とセキュリティ強化の両立が実現できます。
さらに、グローバルに展開する企業ではCDN(Content Delivery Network)の導入も有効な手段です。CDNの活用により、地理的に離れた拠点でも安定した通信品質を維持でき、特にクラウド型VDIを採用している場合には大きな効果を生み出します。このように、ネットワークインフラの構成を適切に設計することにより、VDI環境の安定性と応答性が大幅に向上します。
クライアント側での改善策
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クライアント設定の最適化による快適な操作性の実現
最後に、クライアント側の設定を見直すことで、VDI環境の体感速度を大きく改善できます。表示設定については、業務に必要十分な解像度とカラー品質を見極めることが重要です。例えば、一般的なオフィス作業の場合、フルHD解像度(1920×1080)と16ビットカラーで十分なケースが多く、このような適切な設定により転送データ量を抑制しつつ、快適な操作性を実現できます。
ローカルリソースの設定も慎重な検討が必要です。USBデバイスやプリンター、クリップボードなどの機能は、必要最小限の範囲で有効化することで、セッション確立時の処理負荷を軽減できます。
また、クライアントキャッシュを適切に活用することで、繰り返し使用するデータの転送を最小限に抑えることができます。キャッシュサイズと保存期間を業務パターンに応じて最適化することで、ネットワーク帯域の使用効率を高めながら、アプリケーションの起動時間短縮にもつながります。
デスクトップ仮想化の次世代ソリューション
従来のVDI環境が抱える課題を解決する選択肢として、データレスクライアントの導入が注目を集めています。データレスクライアントの導入によりどのように課題が解決されるのか見ていきましょう。
データレスクライアントについては、次の記事も参考にしてください。
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データレスクライアントとは?仕組みやVDIとの違い、メリット・デメリットを解説
データレスクライアントがもたらす運用面での価値向上
最も大きな特徴は、オフライン作業への対応能力です。VDIでは常時ネットワーク接続が必要となり、ネットワーク環境が不安定な場所での業務が困難でしたが、データレスクライアントでは必要なアプリケーションやデータを端末に一時的に保存することで、オフライン環境でも業務を継続できます。
パフォーマンスの観点では、ローカルPCの処理能力を直接活用できるため、安定した操作性を実現できます。VDIのように画面転送は行わないため、VDIで課題となっていた画面転送の遅延やちらつきといった問題からも解放され、ストレスのない快適な操作が可能となります。
セキュリティ面でも優れた特長があります。端末内のデータは暗号化され、定期的に自動消去される仕組みを備えているため、端末の紛失や盗難時のリスクを最小限に抑えることができます。また、適切な管理ツールと組み合わせることで、セキュリティパッチの適用やマルウェア対策も一元的に実施でき、従来のVDI環境と同等のセキュリティレベルを維持できます。
データレスクライアントによるコスト最適化の実現
データレスクライアント環境への移行により、システム全体のコスト構造を見直すことができます。まず注目すべきは、サーバーリソースの大幅な削減効果です。VDIでは全ユーザーの処理をサーバー側で集中的に行う必要がありましたが、データレスクライアントではクライアントの処理能力を活用できるため、必要なサーバーリソースを削減できます。
また、運用管理の面でも大きなメリットがあります。VDIでは日常的に発生するパフォーマンス問題への対応や、リソース割り当ての最適化に多くの工数が必要でしたが、データレスクライアントではこれらの調整作業が大幅に軽減され、システム管理者の負担を抑えることができます。
さらに、ネットワーク帯域の利用効率も向上します。VDIで必要だった常時の画面転送が不要となり、必要なデータの同期のみに帯域を使用することで、特に拠点間のWAN回線の負荷を大幅に軽減できます。これにより、回線増強のコストを抑制しながら、より快適な業務環境を提供することが可能となります。
段階的な改善と将来を見据えたソリューション選択
VDI環境のパフォーマンス改善には、原因の特定から具体的な対策実施まで、体系的なアプローチが必要です。ネットワーク帯域の最適化、サーバーリソースの適切な割り当て、そしてクライアントの設定見直しなど、それぞれの要因に応じた対策を講じることで、多くの場合、性能向上が期待できます。
しかし、根本的な解決を目指すなら、データレスクライアントの導入も選択肢としてみるとよいでしょう。VDIの性能改善に取り組みつつ、将来的なデータレスクライアントの導入も視野に入れることで、より柔軟で効率的なリモートワーク環境を実現できるでしょう。まずは現状の課題を正確に把握し、組織に適した改善策を選択することから始めましょう。
データレスクライアントである「セキュアコンテナ」なら、隔離されたセキュアな業務領域を生成し、その中でのみ業務を行うことができるため、端末内に業務データを残すことなく、高度なセキュリティを実現します。業務終了時にはその領域を削除するため、MDMの導入やリモートワイプを使用せずとも、万が一端末の紛失や盗難が発生した場合でも、重要なデータを失う心配がありません。さらに、スマートフォンやタブレットからのセキュアブラウザによる作業にも対応しているため、多様な働き方にも柔軟に対応できます。
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